ステンドぐらす


「ライター貸そうか?」

そう言われて顔を上げると、向かいのボラードに、ついさっきまで腰を下ろしていた男が目の前にいた。ヒールを履いている私より10cmくらいも背が高い。

黒いパンツに黒いジャケット、白のTシャツ。

へリックスに開けられた冷たいシルバーのチェーンピアスが月夜に良く映えているなと思った。
なんだか昼も夜も似合わないような、世界の中で居場所を失って立っているような、、、
目元には優しそうなシワが寄っている。そう思って見上げる彼の目はどこか寂しそうで、目の前の私に何の興味もないような。そんな瞳。

首の後ろのうなじの辺りから背中まで、雨が伝うように鳥肌が立つのを感じた。男がライターを私の口元まで持ってきたことで、ようやく瞳の束縛から解放される。

そうだ。

私はさっきまで、ライターの回転ドラムをカシャカシャ回しながら火のつかないセブンスターを咥えている女だった。

「あ!ありがとうございます」

何故か焦ってお礼を言い。彼の指先へ窄めた口元を近づける。

カシャ、ぽっ。

お気に入りのジルスチュアートのリップが優しい光で映写する。
自分を落ち着かせるように、肺に深く煙を入れていく。
自分の体内に新しい宇宙が広がるみたいに。
吐き出した煙が街頭の青白い光に照らされていて、とてもエモかった。
夜の街でタバコを吸うのは、たぶんこれを見るためだと思う。

「セブンスター、か」

そう言いながら、胸ポケットからタバコを一本取り出し、スラッとした人差し指と薬指で挟んでやさしく口に咥える。とても自然な流れ。もちろん、モノを取り出して口に運ぶだけの行為に自然もなにもないんだろうけど、彼には似合っている。

ふっと、彼とせっくすをしている白昼夢が襲ってきた。若くは私の妄想なのかもしれない。あぁ、確かに彼はこんなふうな優しい愛撫をしてくれるのだろう。

「俺にも」

そう言って、私を見下ろす彼に促されるように私も顎上げる。
ゆっくりと唇を近づけながら、まだ彼は私の目を真っ直ぐに覗き込んでいる。
サウナに入った瞬間の、ウイスキーが喉を伝って胃の中に充満していくような、そんな感覚で身体中が火照った。

男の胸に手をあてる。

インターネットの記事に『シガーキスをする時は息を合わせるのがコツ』と書いてあった。彼の息遣いに合わせて私もタバコを煙(ふ)かす。

上手にデキているのだろうか。

いや、そんな事は。どう、でも、いい。

彼のリズムを感じたいと思った。

とても温かい。どこか赤ちゃんの時に感じた様な、ゆっくりとした息遣いが皮膚を通して伝わってくる。
子宮がきゅうっと疼いて熱がこもるのを感じた。
身体がふわり浮かんで全部がコントロールされているような感覚、支配を預けることが心地良くて自然とリズムを彼に合わせている。

彼の口元がふあっと明るくなり、ゆらゆらと揺れていた。

彼の息に乗せてパーラメントの煙が鼻の中を刺激する。なんだか勿体無く感じて咳をするのを我慢していると、知らないうちに生温かい涙が頬を伝っていた。これほど涙が心地いいと感じたのは今夜が初めてだと思う。

ぽん。トン、トン。

泣いている私を心配したのか頭に手を置いて優しく撫でてくれる。

この瞬間で世界が止まればいいのにと思う。止まらなかったにしても、なんとかこの世界のビートをもたつかせられないだろうか。

何か話そうと話題を頭の中で吟味していると、彼が背を向けて歩き出した。
このまま別れたら2度と会えないだろう、名前も知らないし、世界は広いから。
どうして、何も言ってくれないんだろう。
なんで、すぐに行っちゃうんだろう。
私の外見がモデルや女優さんと勝負できるとは思わないけど、正直大学の中ではいけてる方だと思うし、休日に街でカットモデルの声を掛けられたり、ナンパだってされた事もある。

男の人が女の人に近づくってそういうことじゃないの?

違う!

別に私が男に飢えてる訳ではない。大学は共学だし、そこそこカッコいい男の子だって友達だし。それに、彼氏だっているんだから。
ただ、なぜか彼には声を掛けて欲しい。立ち止まって欲しかった。

街頭の光に照らされていた男の背中が段々暗く輪郭がぼやけてきた。

「あっ。あのー!!」

しまった!どうしよう。

お話しませんか?なんて。一緒にお酒飲んでくれませんか?なんて。
私が掛けることの出来る言葉じゃない。
今自然に彼を引き留められる言葉なんて、存在しないんじゃないかと思う。

男が立ち止まって半分だけ振り返った。

あっ。そうだ。

「ライター。そう、ライター!。。ありがとう!(ございます)」
これで、精一杯なのだ。

右手を肩より少し高く上げて「どういたしまして」と言っているのが闇の中に見えた。
結局、彼は背を向けて私から離れていく。
もう、街頭の光も届かない世界へ消えていってしまう。

セブンスターから大きな灰の塊が道路のアスファルトに落ちる。細かな小さな灰が初夏の夜風に花びらのように舞い上がって円を描いていた。

「来いよ」
優しい低い声が乱暴に鼓膜を打ちつけた。
鼓膜の振動に押されるように足が自然と前に進む。

どこに連れて行かれるのだろう。

彼が誰なのかも、年も、好きな食べ物さえまだ知らないのに、不思議と不安がない。今夜、彼の隣に私がいる事で全てが肯定される感覚。私という存在も今までの人生も納得できるような気がした。
私が彼のピアスを確認できる距離まで近づくと、また背中を向けて歩き出した。遅れないように彼の右側に張り付く。彼の進みが少し遅くなった気がする。
私に合わせてくれたのだろうか。。。

「俺の家、少し歩くけど 」
「うん」

私は、今から彼に抱かれにいくのだろう。
そう思うと、彼の横顔も簡単に見つめることができる。
変に観客的に自分を見てしまうときがある。私の周りには無数のカメラがあって、そのカメラを通して自分を眺めているような感覚。
レンズ越しに自分を操作すれば後ろめたさだったり、下品さだったりを感じなくて済むのだ。

「コンビニ寄る?」
彼の顔が少し私に傾いたのがわかった。
右耳のピアスが星に照らされてほんとうに綺麗だ。
彼がこんなに綺麗なピアスを付けていなかったら、私は彼の横を歩けなかっただろう。愛されている人から言われた同じ台詞が頭に浮かんで明日の予定を思いついていたかもしれない。

それでも、彼のピアスは眩しかった。

「私は大丈夫」
「そう」
歩道の隅に花菖蒲が咲いていた。夜道でも良く色合がわかった。
「お兄さんなんて呼んだら良い?」
そうだ。名前が分からないとどう話しかければいいのか分からない。
「のんで良い。君は?」
「さき」
自分の名前をかしこまって言うなんてなんだか恥ずかしい。初めましての挨拶ほど滑稽なものはないだろうと思う。
「さき、か。俺の地元の同級生に同じ名前の奴がいたよ。似てるかもね君に」「その子可愛かった?」
はしゃいだ気持ちのままにいたずらっぽく聞いてみる。
「まあ可愛かったよ」
彼の同級生に私は似ている。そして、その同級生を彼が可愛いと言った。

つまり、、、私もキュートということ。ですか?

「まあ、そいつ男だけどね」
のんが眉を緩めて意地悪そうに言った。
ビックリして、なんだ男かよ。と思った。
紛らわしい名前をつけやがったものだ。
「え、男?女の子みたいな名前だね」
のんが急に笑い出した。
「うそうそ。女に決まってんじゃん」
まだ笑ってる。
「うん。可愛い子だった。可愛い子だった」
私をなだめるような微笑みで彼が言う。
「え、そうなの?ねえ、何がそんなにおかしいのさー」
「だってさきちゃんすげえ嬉しそうな顔すんだもん。なんか悔しくなってさ」
こいつ分かってやがる。。。いや私が分かりやすいだけなのか。多分そうだ。「なんだそれ」
素っ気なく言ってみる。そんな楽しい嘘をつかれると、また照れてしまうじゃないか。それにしても、出会ったばかりの男女の会話としてはなかなかロマンチックで素敵な会話をしている気がする。

電柱の横で暑苦しく光っている自動販売機を通り過ぎるたびに、道に迷った感じがした。どの道もさっき通ったような。同じ自動販売機を見たような。130円のカルピスソーダを美味しそうだなと喉を鳴らしたような気がした。

のんの家は、多摩川を超えて最初の駅。新丸子駅から徒歩10分くらいの閑散とした住宅街の中にある。ボロアパートと言うより上京してきたフリーターがとりあえず選んだようなところだった。
玄関に入るとすぐ右側に台所があって、ちゃんとしたキッチンテーブルが置いてある。その奥に8畳くらいの部屋があった。

「お酒飲む?」
そう言い終わるか、言い終わらないかの内にのんは立ち上がって台所の暗闇に消えていく。
「うん。喉乾いちゃった」
ガチャガチャとアルミの音がした後に冷蔵庫が閉じられたようなノイズがする。
すぐに両手に強めの缶酎ハイを握って帰ってきた。
缶の表面から彼の指を伝って水滴がぽたぽたと滴っている。
「はい、どうぞ」
水滴の少ない方を私にくれた。
「ありがと、これ好きだよ」
のんがベットに寄りかかってお酒を飲み始めた。私も真似をしてベットに寄りかかってアルミ缶の縁を啜った。

「さきちゃんって幾つ?」
そう言いながらテレビの電源ボタンを指先で探している。
「21だよ」
「僕より3つも年上か」
年下なのか。他人の年齢を予想するのって思ったよりも難しいのかもしれない。
「うそ、年下に見えないよ」
「うん、よく言われる。でも、俺だって結構子供なとこあるよ」
そう言って笑う笑顔は確かに幼かった。
「ふーん。」
なんとなく分かる。どんなに格好つけた男でも可愛いな。と思ってしまう時がある。多分それは、私達女に授けられた特殊能力なのかもしれない。

「のんは大学生なの?」
「こんな大学生いないだろ」
確かに全身黒づくめの姿は大学生には見えなかった。ネオン街のキャッチと言った方がしっくりくる。
「ホントは俺も大学生になりたかったんだけどね」
のんが特に寂しがりもせずに呟く。
「確かに楽しいよね。でも、社会人の人かっこいいと思うけど」
ちょうどテレビでは都内の私大生が起こした淫乱飲酒騒ぎのニュースがやっていた。
次のニュースです。と、アナウンサーがテンポよく読み上げていく。聞き慣れた声が心を落ち着かせてくれた。
「ステンドグラスって知ってる?」
「ステンドぐらす?」
「そう。綺麗なキラキラしたやつだよ」
そう言いながらのんの表情が明るくなっていく。
「ステンドガラスみたいな?」
「そうそう、ステンドガラスのこと」
あ、ステンドガラスのことなんだ。
「ステンドグラスとも言うんだね」
「うん。僕はグラスって呼んでる」
「へ〜勉強になる」
実際、大学の講義なんかよりも有意義でワクワクする授業だ。
「まずね、ガラスに金属を入れて色をつける。着色ガラスって言うんだ」
「ちゃくしょくガラス?」
「そう。その破片をペタペタ貼って一つの絵を完成させる。大事なのはね、その絵じゃないんだ。光なんだよ。ステンドグラスって元々教会に張られてたでしょ?だから、勿論窓としての役割があるんだ。どんなに綺麗なステンドグラスでもその透過光が美しくなかったらダメだね。でも、完璧に配置されたステンドグラスって最高だよ。朝から夜まで表情が全部違うんだ。太陽光の角度、月光の角度、光の強さなんかですごく変化する。その透過光も作品の一部なんだ。」
一気に言い終えると、ふーっとため息だか深呼吸だか分からないものを吐いて笑った。私はのんが子供みたいに話している間、へえ〜とうんしか云わないロボットになっていた。勿論とびっきり表情豊かなロボットに。

テレビの画面は深夜の旅番組に変わっていた。

「そっか、好きなんだね。ステンドぐらす」
「うん。とってもね」
「なんでそんなに好きなの?」
のんが缶チュウハイを床に置いて考えている。
男の人の考えている姿は素敵だなと思う。

しばらくテレビの音だけが部屋に流れていた。
なぜか、この王道の質問にのんはひどく悩んでしまったようなのだ。


「だって綺麗だよ?」
突然、のんが呟いた。リズム感のない間の抜けたタイミングだ。
「そうだけど、それだけ?」
「うーん。。。それだけなのかも。」
綺麗なものってそれだけで愛しいんだよ。ステンドグラスってこの世の中で一番美しいものだと思うんだ。と少し声を弾ませて話してくれた。
彼が言うならきっとそうなのだと思った。
ステンドグラスが世界で一番美しいのかもしれない。


「ステンドグラス職人になるのが夢なんだ」
少し緊張した声色でのんが呟いた。
「いいね。だからステンドグラス好きなんだ」
「それは、話が逆さ」
確かに。と思って2人でしばらく笑った。

「ホンモノとニセモノの見分け方、教えてあげようか?ステンドグラスの」
「教えて!教えて!」
わざとらしくはしゃいで答えてみる。
「ステンドグラスを裏から見てみるんだ。教会なら教会の外からステンドグラスの窓を見てみる。ホンモノは裏から見ても綺麗なままなんだよ。ニセモノは黒く淀んで見えるんだ」

人間と同じだ。と思った。

私は、ニセモノなのかもしれない。ホンモノにはどうやったらなれるのだろう。そもそも、ホンモノは存在しないのかもしれない。出来の良いニセモノが必死で輝いているだけで、この世のものは全部があべこべなのだろう。

お酒が無くなってしまったのか、のんは立ち上がってまた暗い方へ行ってしまった。なんとなく時計をみると日付が変わる直前だった。

「お酒もうなかった。ごめんね」
そう言いながら大きなコーラのペットボトルを連れて帰ってきた。
「大丈夫、もう遅いし」
「お酒の代わりにこれ持ってきた。みてごらん」
そう言って大きな手を私の目の前に持ってきて優しく広げてみせる。
のんの手のひらの中に、いろんな形の、いろんな色のガラスの破片が散らばっていた。爪くらいの大きさのものも名刺くらいの大きさのものもあった。
「これが鉄、これがマンガン、コバルト、ニッケル」
茶色、紫色、青色、黄色の順で指を指していく。

青色のガラス破片をつまんで天井に照らしてみる。
色が判別できないほどの光が水晶体を突き抜けた。
これはいけない。と思って今度はテレビに透かしてみる。
ガラスは、ちょうどよく青白く光った。
今度は台所を覗いてみる。暗い、ぼんやりとした青色が広がっているだけだった。のんの瞳の色に似ている気がした。
最初に私を見つめてきたときのあの瞳だ。

「これ気に入っちゃった。すごい綺麗」
「うん。綺麗だね。それさきにあげるよ」
のんは立ち上がって、残りのガラス破片を本棚の上に置きながら優しく言った。

しばらく青色の着色ガラスで色んなものを見て遊んだ。

月が出始めた頃、テレビの音も煩わしく感じてきたのだろう。のんがテレビの電源を切る。ほとんど同時に私もガラス遊びに飽きてしまって机の上に青色のガラスを置いた。ガラスは、ペタッと机に寝て机との間の空気が抜け真空になっていく。

「私、自分のこと全然のんに教えてないね」
まだ下の名前と年しかのんには伝えていなかった。
何も言わなくてもこの人は私のことを分かっているような気がしていた。
随分と昔から一緒にいるような、そんな感じがする。

「大丈夫だよ。話を聞いちゃったら多分君を抱けなくなるから」
驚くと同時に頬が紅潮して心臓が早くなる。全身が心臓になったみたいにドクンドクンと身体が脈を打った。
火照りが収まらないうちに彼の指が私の頬を伝って耳を撫でる。
あぁ、顔の火照りがバレてしまう。
そんな不安が頭に浮かぶ前に唇が濡れた。

あ、気持ちい。声にならない声が漏れる。

一瞬で下半身の力が抜け、次の瞬間には両手の指先近くまでほとんど脱力状態になっている。身体中がぼーっとしているような感覚。
私が唾液を絡めると彼が両手で頭を抱きながら舌を吸って吐息を漏らす。
お酒の匂いが上書きされるくらいの間、お互いの体温を唇で感じあっていた。

そうだった。タバコの火を移す時に彼の律動も私に移ってきたのだ。
彼がワルツを踊ろうとすれば私の体も自然とワルツに流れていく。
彼が下唇に歯を乗せてくれば私も自然と鼻先をこすり合わせる。
唇をはなして目線を絡める頃には2人とも裸になっていた。

彼が耳を舐めながら私のお腹に指を滑らせていく。タバコを取り出す時よりも荒々しい。そのまま、すーとお臍の中に指が入っていく、この感覚は人差し指かなと思った。
そのまま火照った太ももを撫でて穴の輪郭を指先で探っている。彼の指の付け根がクリトリスに触れた瞬間、軽く痙攣しそのまま彼の胸に頭を埋めた。
ゆっくりと押し倒され、そのままおでこにキスされる。
指よりも太いものが膣の表面を撫でてそのまま中へと入ってくる。太ももの裏から感覚が甘く鈍っていく。押し寄せる快楽の中で吐息交じりの息をした。
しばらくすると、粘液が内股をつたってお尻の方まで流れてくるのが分かった。
ふっと覗きあげた彼の顔はとても寂しそうだった。
チェーンピアスの無機質さはその孤独に寄り添ってしっかりと似合っている。

「やっぱり優しいね」と言うと。
何も言わずにキスをくれた。
「どうしてそんなに悲しい顔してるの?」と聞くと。
「え?気持ちいから」と言って優しく微笑んだあと、また寂しそうな顔をする。
「ここのほくろセクシーだね」と言って彼の首筋を優しく舐めた。
「まあね」と微笑んで彼が私の乳首を舌で転がす。

解放された快楽が収束することなく広がり続けていく。
弾けるころには、彼の腕を握る手に力が入り、腰が浮き、膝がリズムを刻んだ。

ゴトンゴロン、ガッ、ガタンガタッ

しばらく目をつぶって横になっていた。
遠くで電車の音が聞こえてくる。
終電はもう過ぎているから貨物列車なのだろう。

「白馬になるのもいいかもな」
彼が横で囁いた。
「ドMなんだね」
そう言ってからかってみる。
「踏み潰す側さ」
彼が笑って言う。
そういうところが好き。と言うとバカだねと言って撫でてくれた。

目が醒めるとカーテン越しに朝日が差しているのが分かった。身体が怠くてなかなか起き上がれない。自分の口からの匂いで昨晩は酎ハイを飲んだのか。と確認した。
のそのそと布団からはい出ると外の空気が涼しかった。
青色の破片の横で居場所を失っているコーラを手にとって胃の中に垂らしていく。炭酸が抜けて甘ったるくなっていた。
ちょうど彼の粘液もこんな感じだったのかもしれない。

ベットに戻って昨日見た夢を思い出す。
昨日の夢には、隣で寝ている男は出てこなかった。
私にいつも愛を約束してくれる。世界一(たぶん)私の髪を愛でるのが上手い彼、その彼の夢を見た。
そして、そう思うとなんだか安心してまた浅い眠りについた。

机の上のガラス破片が月に照らされて真っ白に輝いている。

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